【コンセプト開発①】食品業界の方へ。コピーライターが考えるコンセプトへの導き方と事例。

結論

・まず、どういう状態であって欲しいと考えるか。
・その状態には、切実さが内包されていそうか。
・斬新な新しさだけでなく、地続きのような古くて新しい要素がありそうか。
・見出された価値への変換が可能か。
・あって欲しい状態と生活者との関係性が強く構築できそうか。


これまで、コピーライターとして上記のような視点で、コンセプト開発を導いてきました。
それは、お土産品だったり、高級スーパーのバイヤー向けの商品だったり。
商品以外では、社員教育、事業の在り方、店舗運営の在り方など、多岐に渡って手掛けてきました。
逆に、コンセプトなしでは、商品づくりや事業やサービスは「無駄」な要素が多く、アイデア合戦に陥りやすいですね。

ですので、時間は要しますが、漏れや抜けがないか入念に設計していきます。途中でクライアントには「こんな感じになりそうです」と進捗報告をしていきます。
段階的に合意形成を入れて、クライアントの考えから逸れていないか?を確認していきます。
時には、あまりにも思考の範囲が広かったり、企業全体の在り方を導くようなコンセプト開発では、ステートメントを提示するようにしています。
分かりやすく言うと、コンセプトも決まり、伝える要素も決まった状態だとします。
そして、それを広告する時に、言語化されたステートメントやコピーが視覚的にどうなっているのだろうか?とゴール地点からの逆の発想で考えていきます。
または、ラジオやCMで流す時に、どのような声質で、どのようなスピードで、聴こえて来そうか、なども考えます。

コンセプトの事例

昨今問題となっている「有明海の海苔の色落ち問題」。
海の状態が良くない事で発生する、我々に自然界から提示された、深刻な課題ですね。
この色落ち海苔を使って、あるクライアントから海苔の佃煮を作るので、ネーミングやパッケージデザインを依頼されました。

まず、最初に思ったことは、俺は前回佃煮を食ったのはいつごろか?でした。
これは、まったく思い出せないくらい、食べていない事が露見しました。
また、佃煮が売ってあるスーパーも数軒回りましたが、どこで売っているのかさえも分からないくらい、品数も少なく、漬物などの商品に圧倒されていました。
知り合いのバイヤーに聞いても、特に若い人には全く見向きもされないので、当然仕入れも少ない、とのことでした。

さて、どうしたものか。
クライアントとの打合せでは、色落ち海苔を商品化して、少しでも漁師の収入の確保ができれば、という一点だけで、特に佃煮が好きというわけではありませんでした。
ただ、食べ方のヒントとして、和食のイメージが強いのですが、ブルーチーズにも合うということで、洋食やお酒のあてにも良いという突破口のような事実は頭の片隅に置いておきました。

海苔とは何か

当たり前の事ですが、その当たり前の中に、盲点のような、見えていなかった要素があったりします。
海苔が獲れる有明海とは何か?
月の満ち欠けによる、潮の干満差が日本一の有明海。その満ち引きを利用して、海中にある状態の時と、潮が引いて日光にさらされる状態を繰り返す、有明海の奥部の養殖方法。
つまり、月の引力が大きく作用しているわけです。
という事は、この佃煮が誕生するには、月を無くしては存在しない商品となります。
月、という大きなキーワードが出てきました。

誰との関係性を構築するのか

佃煮の試食を数回させてもらいました。
なるほど。これはとても美味しい。そして、猛烈に白米を食べたくなります。このブログを書いていても、思い出してまた食べたくなるくらい美味しい味です。記憶されるレベルだと思いました。
つまり、食べて貰ったら、50歳くらいのおじさんは、その味を記憶する、ということですね。
じゃあ、おじさん向けに、佃煮との関係性を構築するのか?と思いましたが、おじさんもいいけど、圧倒的に買い物をする人は女性が多いので、おじさん、つまりダンナの酒のあてにもなる、ごはんのお惣菜を買いに来る奥様、という仮説を立ててみました。

いったんコンセプトを定める

実は、このクライアントさまは、佃煮以外の有明海の海苔を使った商品を数品目ですが、作ってこられました。
オヤツ感覚の海苔のチップスのようなもの。
さらに、海苔の栄養を詰め込んだドレッシングなどです。道の駅などで時々お見受けはしておりましたが、このクライアントさまの開発商品だとは、教えてもらうまでは把握できていませんでした。
それでも、これらの商品はすべて有明海の海苔を使用しています。当然と言えば当然ですが。
そこで、クライアントさまにご提示したのが、下記のコピーを見せて、コンセプトを設定しました。

ここまでくると、だいぶ輪郭が見えてきました。
どの商品も、海苔を生かすために、とてもシンプルに作られていました。必要のないものは一切入れ込まれていませんでした。
ほとんど「そのまんま」という感じです。
そこで、今後の商品開発も視野に入れて考えていくと、「地元の食卓にはだいたい在るヤツ」という親近感と日常感を込めたコンセプトを設定しました。
これは、食文化を絶やさない、という産地ならではの切実さも込めました。
飽食の時代ですから、一気にこの佃煮が広まることは無いでしょうが、漁業関係者や地元の食材を使った商品を欲しているバイヤーとも連携し、単独では時間がかかるところを、協業するような体制を作ることも販売計画に練り込みました。

コンセプトが設定されると、商品の顔がなんとなく出てきます。
有明海の状態を知るきっかけにもなって欲しい。
なり手不足で高齢化が進む漁師の収入にもなって欲しい。
そして何よりも、地元民が、地元の食文化を受け継ぐという意識を持ってもらいたい、という願い。
海苔の佃煮がどうあって欲しいのか。
そして、切実さが内包されているのか。
ただ美味しいから食べるのではなく、そこに地元の食文化を、食べて支えるという関係性を長期的に展開できそうか。

そんなことを常に考えながら、導いてきました。
次回は、この佃煮のネーミングについて書いてみます。ご参考ください。