商品が人格を持つように考えていく。
作り手の思いや買って頂きたい方へのメッセージなど、様々な要素が込められた商品名。
今回は、海苔の佃煮のネーミング開発について、書き記したいと思います。
まず佃煮の前に、月の引力による、潮の満ち引きで養殖される海苔に注目しました。
ただただ「有明海の海苔」を使用した、佃煮です。と言っても、それが私に何の関係があるの?となります。
そして、どんな風に美味しいのかも、白ご飯がススムとしか表現のしようがないので、いやいや他にも白ご飯がススムのはあるのでは?となります。
クライアントさんとの会話をもう一度おさらいしていくと、ブルーチーズとの相性の良さ。そして、酒のあてにも良い、ということを思い出しました。
月、干満差、ブルーチーズ、酒のあて・・。
そして、スーパーでの佃煮の扱われ方。
ここから、構想していくのですが、どんなシーンでこの海苔の佃煮を食したら、情緒的に訴求できるだろうか?
ひとの感性に響くような価値を感じて頂けそうか。
「月」という夜に現れる、静謐で、しばし見ていても飽きがこない、唯一肉眼で眺められる星。
お酒もほとんどの人は夜に嗜みますからね・・・。

月の満ち欠けは、約30日で一周するようです。
その半分の期間が、新月から満月に至るまでの時間となるようです。そして、ここからがなんとも風情のある月の呼び名が並ぶのです。
少しづつ欠けたり、変化していく月を昔から楽しんでいたようです。
江戸時代には、月待信仰とも呼ばれ「月に願いをかける文化」まであったようです。
今よりも時間がゆったりと流れていたのでしょう。
十六夜(いざよい)以降の「立待、居待、寝待、更待」などの名称が並びます。
お酒のあて、を想起させるような商品名はどうだろうか。
日本酒のラベルにでもあってもよさそうな、風流さを感じさせるような商品名。
居間月、という月の名称があります。
まだかまだかと居間で待っているときに、現れる月のことをそう呼ぶそうです。
現代ではなかなか、月を待つ、ということはしないのですが、それでも、居間という漢字からは「畳」を想起します。
リビングではないのです。あくまで、古くて新しい要素から抽出していく作業なのです。
居待の月夜
佐嘉有明 海苔佃煮
月を愛でながら
このように第一候補の商品名はご提示しました。
海苔の佃煮を全面に出すのではなく、エモーショナルな印象を設計し、純文学のような世界観を演出するために、グラフィックは遠い夜空に浮かぶ、居待ちの月をイラストで表現し、漆黒の闇は、海苔そのもので表現するようなデザインを依頼しました。
慣れを突破する商品名の開発。

どうしても、「佃煮」を全面に出すと、しっかりと関係性が構築されていないひとには、スルーされてしまいます。
コピーライターとして、言葉の表現の知的バンクに貯金するため、あらゆる分野の本を、日頃から読んで蓄えていたりします。
今回も、その知識が役に立つ瞬間がありました。
「佃煮」なんだけれども、「佃煮」を避けたい。矛盾してますが、どうせアレだろという「慣れ」を回避したかったのです。
小説 みをつくし料理帖。
3冊くらい読んでいて、あらかた食に関する表現だったり、時代設定が江戸なので「こいつぁあ、うめーや」的な江戸っ子感満載なので、ヒントがないかな、とサラリと読み直していました。
すると、みりんの製造する時にでてくる粕があり、そのしぼり粕を、小説では主人公の幼少期に、甘味として食べていたシーンがありました。
小説の中では、この甘く煮た料理の名前を「こぼれ梅」と表現していました。
ここら辺で、海苔の佃煮との関連性を思いめぐらしていきます。
あの白米が欲しいっ、という美味しさを思い出します。
茶碗の上の白米に、佃煮をひょいと乗っけて、白ご飯をかっこむ!
口の中では、甘辛くもしっかりと海苔の風味が残っているペースト状の佃煮といくらでも食べれそうな白米の質量的な確かさが広がっていきます。
そこに、みそ汁や卵焼きなんかがあったら、もはや美味しい温泉旅館の朝食ですね。
ほっぺがこぼれるくらい美味しい逸品としての価値が生まれると考えました。
佐嘉有明海苔使用
こぼれ煮
ほっぺが落ちる美味しさ
第二弾のご提示は、ずばり白ご飯がススムおかず。
グラフィックには、湯気がもうもうと出て、もうすぐで炊き立てのご飯が食べれるかまど。もしくは、温泉旅館の朝食で、仲居さんが持って来られるおひつをイメージとしてデザイン依頼をしました。

価値の変換はできそうか。
第三弾も、佃煮の変換を狙ったネーミング作業となりました。
どうしても「つくだ煮」を変換したかったのです。
京都や鎌倉、東京などその地名さえ付いていれば、なんとなく良いもの、と勝手に想起してくれる便利な価値は、地方では使えません。
京都では「おばんざい」とお惣菜のことをいいますね。
鎌倉も「鎌倉野菜」など、なにか特別な印象を持ってしまいますね。
一方で、九州はどうか。
地名そのものでも、まあそれなりに効果が期待できるものもあるでしょう。
特に、視点を変えれば、物珍しさ感を発揮できる場合もありますね。
海苔に関して言えば、やはり有明という表記は差別化に寄与すると思います。
がしかし。
「つくだ煮」なのです。天ぷらでもなく、唐揚げでもなく、ラーメンでもなく、カレーでもない「佃煮」なのです。
一気に地味な感じが支配してきます。
あーとろっとろのチャーシュー麺食いてーとはなりますが、あー佃煮食いてーとはなりません。
そこんとこを、どうにかするのです。つまり、食いてーまではいかないけど、あったらあったで重宝する位置。
口に美味しいだけでなく、身体が喜びそうな、そんな位置。
ありましたね、九州を代表する、筑前煮です。

筑前煮もつくだ煮も「煮もの」ですから「煮」がついてます。
この「煮」を変換し、よりご飯のおかずだよ、と訴求するには「煮」に変わる言葉が必要です。
そう、煮物の呼び方を、炊く、とも言いますね。
「煮る」、「炊く」です。「煮炊き」とも言いますね。
第三弾は、以下のように提示しました。
佐嘉有明由来
海苔の炊き合わせ
炊き合わせ自体は、容易に何かを炊いたものだと想起できます。
あえて佃煮とは言わず、ちょっと手間をかけた逸品として考えました。
また、これらのネーミングを考えていた時に、結局売り場に並ぶ時に、漬物のついでのように並べられても、手に取ってもらうために、「由来」とサブのネーミングで表記しました。
いわゆる、産地はどこか?それはいったい何から生まれた商品なのか?を表明するために「由来」と入れました。
グラフィックは第二弾と同じで、おかず感を訴求するものとしました。
まとめます
・まず、どういう状態であって欲しいと考えるか。
・その状態には、切実さが内包されていそうか。
・斬新な新しさだけでなく、地続きのような古くて新しい要素がありそうか。
・見出された価値への変換が可能か。
・あって欲しい状態と生活者との関係性が強く構築できそうか。
この切り口で、思考を巡らせ、知的バンクから参考となりそうな要素を引き出し、コンセプト、ネーミングを考えていきます。
ご相談は無料です。メールにてお願いします。