生活者とどう関係性をつくるか。
ラーメン、かつ丼などと同じように、生活者にとってはとても馴染みのある食べ物、ハンバーグ。
スーパーの冷凍食品コーナーでも、お弁当用や有名シェフ監修など、似て非なる多くの種類が販売されています。
今回は、このハンバーグの商品開発に至るコンセプト開発をお伝えします。
ある日クライアントさんから、「佐賀牛と鹿児島の黒豚の合い挽き肉でハンバーグを作ろうと思うが、コンセプトを考えて」と言われました。
通常、ヒアリングや市場調査、バイヤーへの聞き取りを経て、コンセプトを導く手順だと思うのですが、そこは中小企業の野生の感とでも言いましょうか、「カレーと同じで、王道にこそ、チャンスあり!」と良く分からない理由で、とにかく生活者に手に取ってもらうべく、思考をスタートしました。
クライアントさんは、冷凍食品を製造販売する会社です。
社内には冷凍食品に関する資料や市場動向などのデータはありますので、割とトレンドとかメーカーごとの情報、問屋流通小売に関する情報はすぐに手にすることができます。
デミグラスのハインツ。お弁当に最適なミニハンバーグ。とても種類が豊富で、どうやって特徴を際立たせるか悩みました。
佐賀牛とは言え、松坂牛ほどのインパクトはありません。
黒豚とて、それほど希少性があるわけでもありません。
調理に使用する素材全てを九州産でそろえて「健康」とか「身体に良い」などを訴求しても、ラーメンと同じで、ハンバーグに健康を求める事はありません。
正直言って、難しいと思いました。
こういう時は、そもそもハンバーグとは何か?から思考を始めます。

ハンバーグの正式名称はハンバーグステーキだった。
ハンバーグは、ドイツ ハンブルクで誕生したようです。
その後、周辺国に広がり、各国でオリジナルなハンバーグ料理へと変遷していきました。
もちろん、日本もそのうちの一つで、日本に入ってきたときは、ハンバーグではなく、ハンバーグステーキという名称だったようです。
今ほどチェーン店が台頭していなかった、1960年代。むしろこの頃は街の洋食屋さんが多かった時代ですね。
高級レストランもありましたが、圧倒的に食事に行く回数が多かったのは、洋食屋さんではなかったでしょうか。
90年代以降は、徐々にそのような個人店経営の店が減っていき、画一的な味のチェーン店が増えてきました。

街の洋食屋さんで、思い出す店があります。
キッチンgotoo。
東京山手線の大塚駅から歩いて数分のところにあります。東京にはサラリーマン時代に約2年間くらいいました。
数回引っ越しをするのですが、この大塚駅周辺で、今でも味が記憶されているのは、このゴトウさんくらいです。
チェーン店ではないので、やはりお値段はちょっとだけ高かった記憶があります。
ですので、頻繁に行けてたわけではありません。それこそ、給料が入って、日々ろくなものを食べていない独身時代は、このお店にランチで行けるのがとても楽しみでした。
思い出話のブログではありませんので、これくらいにしときますが、じつは、この体験がコンセプト開発のトリガーとなったのです。
ひとの体験にヒモづける。

コピーを考えるときは、ぼくはまずステートメントを考えます。それは、手探りながらも、仮説を立てるためにも、粗削りでいいので書いていきます。
書かない事には、すべてが始まりません。
前回のブログでも記しましたように、私のコンセプト開発には以下の項目を満たして考えていきます。
・まず、どういう状態であって欲しいと考えるか。
・その状態には、切実さが内包されていそうか。
・斬新な新しさだけでなく、地続きのような古くて新しい要素がありそうか。
・見出された価値への変換が可能か。
・あって欲しい状態と生活者との関係性が強く構築できそうか。
ステートメントではないにしても、今回のハンバーグのコンセプトにも上記の要素が必要です。
仮説として、書いてみます。
頑張って働いた後に、ようやく食べに行けるお店。
このお店のランチのハンバーグステーキが、大好きだ。
この日の為に、数日ランチをケチったり、節約したりして行くお店なのです。
どうしても期待感が増してきます。混雑を避ける為に、開店早々に行きました。
それでも店内は半分くらいのサラリーマンで埋まっていました。全員男性です。
席に着くなり、注文をし、水を一口飲んで、なんともこれから始まるハンバーグショーへの幕開けに落ち着けません。
ウェイトレスさんは二人います。どうしても、厨房から出てくる彼女らの動きが気になってしまいます。
それは皆同じで、パッと奥から現れたら、彼女の手元に注目してしまいます。
まだかまだかと待つ事10分。
ジューっと鉄板の音とともに、ウェイトレスさんが、どこに行くのか瞬時に判断をします。
残念ながら、私の隣のテーブルでした。
デミグラスの匂いが、一気に食欲を駆り立てます。若干、チクショーと自分勝手なことを心の中で、叫んでたりします。
隣の客が、第一投目を口に運んだ時、もう一人のウェイトレスさんが、私の視界に入りました。
間違いありません。こんどこそ私のモノです。小指で伝票を挟み、ジュージューと音を立ててコチラに歩いてきます。
高揚感のピーク。
さあ、間違いない美味さの始まりです。
全神経が口の中で広がる、美味さに集中しています。まるで自分とハンバーグだけが抱擁しているかのような集中力です。
古くて新しい意味を見つける。
誰しも経験がある「体験」に注目する。その記憶にも注目する。その記憶を設計するようなコンセプト。
ハンバーグではなく、ハンバーグステーキ。
あの頃の、あの味。
思い出グルメ。
今と違い、生活者自身だけでなく、時代そのものが、希望の方向を向いていた、そんな時代。
デミグラスや和風やイタリアンなどのソースではなく、ケチャップと肉汁とソースを合わせただけのシンプルなソースしかなかったあの頃の味。
単に復刻版ではなく、食べた人の記憶が蘇るようなハンバーグステーキを開発する。
このようにコンセプトを設定し、現在、昔そこで働いておられた方の記憶を頼りにレシピが研究されています。
特に、ネーミングには、思い出グルメと添えて設計していくと、ハンバーグ以外のコロッケやシチューなどシリーズ化もできます。
次回は、同じコンセプトでも、食品ではなく、ある意味ガラパゴス的な商品について書いていきます。