【コンセプト開発⑦】独自性がある強いコンセプト開発の手順

5つの思考の流れ

クライアントは、どういう状態であって欲しいと考えているのか。

その状態を得るためには、何を克服する必要がありそうか?その状態には、社会性、哲学、希望、そして、クライアントのインサイトまで伺えそうか?
傾聴する。観察する。文脈に埋もれた要素を洞察する。


②現状に切実さが内包されていそうか。

共感できそうなポイントを探ること。明るい未来を語ることも良いが、より強い心理変容をねらうのであれば、人は切実さに心動かされます。


③新しさだけでなく、地続きで古くて新しい繋がりが見つけられそうか。

商品やサービスの系統を無視しない、ということ。
これまでの在り方には、これからの在り方に必要な遺伝子的な要素が含まれているはず。


④価値の変換ができそうか。

構想力をフル稼働する。誰にとってこの価値が必要かを決定する段階です。その人にとって、新しい意味を感じられるか?時間を要する期間ですが、新しい意味を発掘した時の気分は、嬉しいというよりも、ほっとするような感じになります。


⑤あって欲しい状態は、生活者と長期的な関係構築ができそうか。

一番強いポイントを見つける。いかにその価値観に寄り添ってもらえるか、というポイントである。ここでは、ほとんど他者の視点で見つめていきます。

実例

色落ち海苔を使用した、海苔のつくだ煮

クライアントからの依頼は、色落ち海苔を使用した、海苔の佃煮を開発するから、そのネーミングを考えて欲しい、という内容のものでした。作る前に相談があったほうが、もちろん良いのですが、作ってからのご相談が圧倒的に多いのが、地方の中小企業のあるあるパターンです。

こういう場合は、可能な限りクライアントと時間を使い、「なぜ作ったのか?」から「なぜ、それが佃煮になるのか?」など「なぜ?なぜ?」を繰り返し、クライアントとの初期の合意形成を整えていきます。あってほしい商品の状態はすでに「佃煮」として存在していますので、どうしても「なぜ?」が増えていきました。

有明海の海苔の色落ち問題は、様々な因果関係がありますが、ひとつは「海苔の収穫量」にあります。つまり、効率よく多くの海苔を収穫する、という営業的な側面の問題です。これは、売上、収入に直結する問題ですので、この場では割愛しますが、自然が提示した人類へのクリティカルな問いかけだと思います。

佃煮でなければならない理由とは何か?

スーパー関係者に聞いても、佃煮の需要が少なく、仕入れても、特に若い世代には見向きもされない状況でした。それなのになぜ、佃煮なのでしょうか。結論から言えば、挑戦でした。

佐賀の有明海苔の食文化を広げる、という挑戦です。一枚海苔の状態だけではダメなのか?とも思いましたが、それだけでは、差異化には程遠いし、ペースト状の佃煮の方が、お弁当やおつまみなど、用途の広がりと新規性が伺える、との開発理由がありました。

ただ、それはそうなのですが、現状では佃煮を佃煮としてそのまま販売するには、あまりにも冒険的で、販売するスーパー側も苦慮することが想定できました。ですので、佃煮は佃煮なのですが、価値の変換が必要だと思い、ネーミング、キャッチコピー、そして、クライアントが望む状態である、地域の食文化の発信を総合的に考えていきました。

「地元の食卓にはだいたい在るやつ」として、実際にあってもおかしくない姿をコンセプトに設定しました。一過性のお土産や自宅消費としてだけの商品価値よりも、時間はかかるが、地元では、だいたいどのご家庭でもあるよという、地域色を浸透させる狙いで、海苔漁師仲間や漁業関係者中心に声掛けをし、販促の計画に入れてもらいました。

さらに、佃煮単体での販売は苦戦が予想されたので、最初からお弁当の一角にこの佃煮を入れた、有明御前弁当(仮称)を同時に開発し、認知拡大に繋がる仕掛けを用意しました。

ネーミングを考える。

スーパーや道の駅など数か所を視察し、手に取ってもらえるようなネーミング3パターンを考えました。詳細は、当ブログのコンセプト開発②でご説明しておりますので、ここでは、簡単にその思考プロセスを紹介します。

月の満ち欠けは、約30日で一周します。
その半分の期間が、新月から満月に至るまでの時間となります。
少しずつ変化していく月を昔から楽しんでいたようです。
江戸時代には、月待信仰とも呼ばれ「月に願いをかける文化」まであったようです。

十六夜(いざよい)以降の「立待、居待、寝待、更待」などの名称が並びます。
日本酒のラベルにでもあってもよさそうな、風流さを感じさせるような商品名。

居間月、という月の名称があります。
まだかまだかと居間で待っているときに、現れる月のことをそう呼ぶそうです。
現代ではなかなか、月を待つ、という心の余裕はないのですが、それでも、居間という漢字からは「畳」を想起します。
リビングではないのです。あくまで、古くて新しい要素から抽出していく作業なのです。

                           居待の月夜
                         佐嘉有明 海苔佃煮
                        

このように第一候補の商品名はご提示しました。
純文学のような世界観を演出するために、グラフィックは遠い夜空に浮かぶ、居待ちの月をイラストで表現し、漆黒の闇は、海苔そのもので表現するようなデザインを依頼しました。


コピーライターとして、言葉の知的バンクに貯金するため、あらゆる分野の本を、日頃から読んで蓄えています。
今回も、その知識が役に立つ瞬間がありました。
「佃煮」なんだけれども、「佃煮」を避けたい。矛盾してますが、どうせアレだろという「慣れ」を回避したかったのです。


小説 みをつくし料理帖。

みりんの製造する時にでてくる粕があり、そのしぼり粕を、小説では主人公の幼少期に、甘味として食べていたシーンがありました。小説の中では、この甘く煮た料理の名前を「こぼれ梅」と表現していました。
ここら辺で、海苔の佃煮との関連性を構想していきます。

茶碗の上の白米に、佃煮をひょいと乗っけて、白ご飯をかっこむ!
口の中では、甘辛くもしっかりと海苔の風味が残っているペースト状の佃煮のせいで、いくらでも食べてしまいそうな、白米の質量的な確かさが広がるイメージです。

ほっぺが、こぼれるくらい美味しい逸品としての価値が生まれると考えました。

                          佐嘉有明海苔使用
                            こぼれ煮
                         
ほっぺが落ちる美味しさ

第二弾のご提示は、ずばり白ご飯がススムおかず。
グラフィックには、湯気がもうもうと出て、もうすぐで炊きあがる、かまど。
もしくは、温泉旅館の朝食で、仲居さんが持って来られる御櫃をイメージとしてデザイン依頼をしました。

第三弾も、従来の佃煮のイメージの変換を狙ったネーミング作業となりました。

京都や鎌倉、東京などその地名さえ付いていれば、なんとなく良いもの、と勝手に想起してくれる便利な価値は、この場合はあまり期待できません。
京都では「おばんざい」とお惣菜のことをいいますね。
鎌倉も「鎌倉野菜」など、なにか特別な印象を持ってしまいますね。
一方で、佐賀はどうか?
地名そのものでも、まあそれなりに効果が期待できるものもあるでしょう。
特に、視点を変えれば、物珍しさ感を発揮できる場合もありますね。
海苔に関して言えば、やはり有明という表記は差別化に寄与すると思います。


口に美味しいだけでなく、身体が喜びそうな、そんな商品設計。
ありましたね、九州を代表する煮物、筑前煮です。

筑前煮も、佃煮も「煮もの」ですから「煮」がついてます。
この「煮」を変換し、よりご飯のおかずだよ、と訴求するには「煮」に変わる言葉が必要です。
そう、煮物の呼び方を、炊く、とも言いますね。


第三弾は、以下のように提示しました。

                            佐嘉有明由来
                           海苔の炊き合わせ

炊き合わせ自体は、容易に何かを炊いたものだと想起できます。
あえて佃煮とは言わず、ちょっと手間をかけた逸品として考えました。
また、これらのネーミングを考えていた時に、結局売り場に並ぶ時に、漬物のついでのように並べられては、手に取ってもらえません。

そのためのちょっとした工夫をしました。産地はどこか?という商品を手に取った人の思考を利用しました。それはいったい何から生まれた商品なのか?を表明するために「由来」と入れました。

コンセプト開発に役に立った本たち

コピーライターだからというわけではありませんが、だいたい同時に4冊くらいを読み続けています。
中でも、繰り返し手に取る本の上位に位置するのは、上記の画像写真の本です。
特に山口周さんの執筆された本は、ほぼ全部持っていますが、コンセプト開発、リブランディング、教養、世界観づくり、構想力などの思考に大きく寄与しました。
AIの時代であり、Z世代の時代であり、数年すると世界規模でα世代が台頭してきます。
しなやかに、その流れに対応する意味でも、上記の本はお勧め致します。

今回のブログで、コピーライターが考えるコンセプト開発シリーズは終えます。
ご相談、お待ち申しております。