要約
1.誰に伝えたいのか?
その「誰」をしっかりと捉える。
2.その人にどう思ってもらいたいか?
時代背景や読み手のインサイトを考え、心理変容を構想する。
3.ステートメントを書いてみる
コピー到達への土台のようなもので、思考を広げるために書く。
4.読み手の体験に訴求する要素があるか?
体験には記憶が紐づいています。その記憶にシンクロするような要素を探す。
“おいしい”という体験は誰しもが経験し、味覚だけでなく、心象風景として記憶されていると思います。
この4つの視点から、以下では実際の食品コピーの事例を紹介します。

美味しいだけでなく、ああ、美味しいを。
単においしいと表現するよりも、「ああ」と入れることで、口に美味しいだけでなく、細胞が喜ぶくらいの体感を表現しました。
人は“ああ”が自然と漏れるとき、味覚だけでなく、心が動いています。
自分もそんな体現をしてみたいと思ってもらうことが狙いです。
また、このコピーは私の実体験に基づいています。少し切ないですが、正直に書き記します。
娘が中学2年の時でした。
まだコピーライターだけでは生活が厳しく、午後から学習塾のアルバイトに行っていました。収入が伸びず、カミさんと娘には申し訳なかったのですが、実家に帰ってもらい、私は、一人で超節約生活を送っていました。
別居理由の主な理由は、男と女では快適な体感温度が違う事。
ですから、例え冬場であっても着込んで、エアコンなし。お風呂もシャワーだけで済ますような、ケチケチ作戦でした。
その日は、年末という事もあり、塾からの帰りは23時頃だったと思います。
かなりお腹が減っていて、白ご飯とカップラーメンを食べようと戸棚を見たら、カップラーメンがありませんでした!
白ご飯だけ?それはちょっと、厳しいのでは、と思い、塾に行く前に確認しなかったことを悔やみました。
せめて缶詰でもと、かごの中をゴソゴソしていると、以前クライアントさんから頂いたレトルトカレーを見つけました。
とにかく、腹が満たされれば良いので、ろくに調理の仕方など確認もせず、パッケージからパウチ袋を取りだし、お皿にそのまま流し込んで、ラップをかけレンチンしました。
スパイシーなカレーの匂いが、寒々としたリビングに広がりました。
温まったカレー皿に白ご飯を大盛りでよそい、一気に食べ始めました。
おそらく、その風景を横から見たら、2週間以上シマウマを食ってないライオンのように映ったことでしょう。
一口、二口食べた辺りで、肉がまったく入っていないことに気づきました。
いったいこれはどういうことだろうと、ようやくパッケージを手に取り、商品名を見て、唖然としました。
ビーフカレーだと思っていましたが、なんとカレーソースと表記されていました。具が無いカレーでした。それでも、十分すぎる美味しさだったので、「あっ、そうなのね。」とさらりと納得し、4口目あたりで、あの一言がでてきたのです。
「ああ、おいしい」
本当に、ごく自然に、誰かに向けて言うわけでもなく、放たれた言葉でした。
この体験が、どう美味しいか、をコピーライターとして探求する起点となりました。

弱かったから気づくことができた。
強いままだと、気づかないうちに弱くなる。
薬膳を製造販売するwebサイトのコピー。年少のころから病弱な時期が続き、女性として一番輝く二十歳でアトピーを発症。
薬剤師として活躍するも、改善されないまま数年が経ち、漢方を試され、本当の強さを手に入れることができたクライアントの経験を元にしたコピーです。過去の絶望的な自分と漢方を人生の仕事として捉えた前向きな自分。
全ての自分が、どれも本当の自分であるという肯定的な捉え方をする分人感覚を応用したコピーです。
クライアントとは、数回のヒアリングだけでしたが、その都度、ステートメント的な文章を準備し、合意形成へと繋げていきました。実際にクライアントのwebサイトに掲載されています。
サイトのトップページには、漢方が徐々に身体を変えていく様を表現すべく”澄んでいく。わたしと薬膳”と縦書きで表記しました。
是非ご覧ください。薬膳香蓮 karen-yakuzen.com

初恋のように、体温が上がる。
島原産の生姜を使った、無添加の加工食品のコピー。
初恋の人を思い浮かべるだけで、心理的に体温が上がったような気がします。
ちなみに、わたしの初恋は中学1年の時でした。
過去の記憶なのですが鮮明に覚えています。
例えばこういうシーンがありました。
学校の長い廊下の先から、友人と一緒にこちらに歩いてくる初恋の人。
わたしには、その女性から神々しいまでのオーラのようなものを感じていました。すれ違う時には、ドキドキして彼女とは別の方向へ視線を移したことも覚えています。
自分が持つ、五感全てが彼女に向けられていた。そんな初恋は誰しも経験があるかと思います。
体温が上がる。彼女の存在が、上げてくれるわけですね。
生姜の効能を誰しもが一度は経験したことのある初恋という言葉で表現することで、ピュアで混じりけのない甘酸っぱさを表現しました。

味付けの陰に、素材がかくれるような調理はしない。
このコピーは、食品でよく謳われる「安心・安全」、「厳選された素材」、「匠の技」などに代わるものを考えていた特に、クライアントが運営する店舗で上記の”まるゆで野菜”という商品を見て、浮かんできました。
クライアントは母体が、冷凍食品の問屋さんでもありますが、自社商品を製造販売もしておられます。
その自社商品の特徴が、ほとんどプロの料理人が手作りで作ります。効率を求めて、機械任せでは作りません。
美味しいのには、そんな理由があるのです。
もうずいぶん前の事ですが、わたしが娘に、このクライアントのシェフが作った、冷凍の和風ハンバーグをレンチンして食べてもらったことがあります。
「うんまー!」と来るかと思ったのですが、想定外の感想で「おとうさん、この野菜ってシャキシャキしてるよ。冷凍なのにね」と。
娘から少し分けてもらい、一口食べると、確かにそうなのでした。予想以上に歯ごたえがあり、ハンバーグの肉汁や和風ソースの味に負けていませんでした。
冷凍食品の多くが、タレが濃くて、場合に寄っては何を食べているのかさえ分からないものも散見されます。
つまり、スーパーで安く販売するには、製造過程での大量生産、調味料のバランス、味覚というより、科学的な旨味などで整えていくしか、あの販売価格は実現できません。
仕方ないのでしょうけど、我々生活者も盲目的にはなってはいけないと思います。
そんな冷凍食品に対して、生活者が薄っすらと抱いているインサイトを深耕し、開発したコピーです。
最期に
わたしは、コピーライターなので、言葉を探します。
もうこれ以上行き止まり、というポイントまで深く長く考えていきます。
思考が終える事は、たぶん死ぬまでないと思います。
私には、大学2年の娘がいます。彼女や、それ以降の世代の為にも、大人が責任ある消費を行う事を切に願っています。
先日、コンサルの山口周さんが言われてました。
今の時代は、優しさが競争優位の条件となる、と。
AIがかなりの確率で正論の中央値を大量に発します。つまりそれは皆が等しく享受できる情報という意味です。
だからが故に、AIには到達できない領域にこそ、人間らしい要素は、埋もれているのだという事になります。
正論以外の外れ部分、仮にそこをコピーライター的な言い方をすれば、人を想う限界領域と言えます。
AIとの競争ではなく、共創の時代ですね。
考えることが苦にならないコピーライター。
貴方にとって、唯一無二の言葉を見つけませんか?
