社員の意識改革、意思統一でお悩みの方へ。
前回のブログで、「発展的原点回帰を回す」というコーポレートメッセージを手掛けたプロセスをお届けしました。
今回は、その後、この企業から「インナー教育」についてオファーがあり、”諦め感”や”惰性”に包まれた社内の空気感を、コピーライターの言葉と、一人の人間として伴走し、徐々に企業内において社員間の繋がりが見えてきた実体験のブログになります。
慢性的に生じる”慣れ”や”ダレ”、そして従業員との向き合い方にお悩みの経営者さまへ、ご参考になるかと思います。
人間として接する|言葉の力が生む肯定感。
発展的原点回帰を回す、と掲げたメッセージを更に浸透させたい、そして、社員が持つ”くすぶり”を解消して、新しい価値を込めたブランドを創りたい。
その為に、長期にわたり、社長の傍で仕事をして欲しい、そういうオファーがあったのは、メッセージをお届けした、約三か月後の事でした。
コーポレートメッセージの策定時には、経営層を中心にほぼすべての従業員さんへの対話を終えていたので、このオファーの意味することは「社員に腹落ちさせ、さらに実装する」と解釈し、すぐに受けます、と返事を致しました
この企業の組織体制は、社長と財務関係の経営管理部。専務、本部長が率いる営業部。常務、工場長が率いる製造部、と三つの体制となっています。
コーポレートメッセージが一番届いていなさそうな製造部から、伴走型のインナー教育の入り口を探すことから始めました。
ほぼルーティン化した業務なので、おそらくメッセージに対して「他人事」と捉えていると思えたからです。
食品の製造工場ですから、衛生面ではこれ以上ないくらい、手洗い、消毒、エアーシャワー、さらに手袋、マスクと一度着たら、トイレに行くのも憚れるくらい重装備になります。
その日は夕方まで、工場長に同行し、各セクションの役割と決め事についてレクチャーを受けました。
各担当の皆さんからは、新参者への興味もあってか、「何者だ?」、「何をしに来たのか?」の視線が降り注ぎますが、わたしは意に介さず、淡々と話を聞き、分からない所は、分からないままにせず質問し、全体像を掴みながらも、”対話の入り口”を探っていました。

翌日から三日間は、製造~出荷部門をお手伝いしながら、可能な限り会話をし続けました。製造チームは、交代で休憩を取られるので、私もそれに準じて対応していました。ここでランチタイムに実際に交わした会話を要約して、書き記します。
相手をしてくれた方は、入社20年で45歳男性管理職。パートさんへの指示、フォローをやられてます。
ちなみにお子さんは三人で釣りと車が好きな、ちょっと控え目な性格の方。Aさんとします。
私「お疲れ様です。しかし、毎日この厳重な衛生管理下で働くって大変ですね。」
A「まあ、慣れですし、OEM製造なのでとても気を使います。」
私「OEM以外の自社商品との比率はどれくらいですか?。」
A「自社商品は年々減っていて、今では全体の3割くらいです。」
私「なるほど。年々OEMは増えて、自社ブランドが減っているのですね。」
A「はい。自社商品よりも、効率よく稼げるOEMの方が営業的にはいいみたいです。製造側は、大変ですけど。」
私「なるほど。ところで、御社の看板商品のデミグラスハンバーグはいかがですか?」
A「競争が激しい、とは聞いてますが、オリジナルのソースのおかげで、今のところ品質的にも安定した製造はできてます。」
この会話から推察できることは、以下の事でした。
・年々減っている自社商品への危惧。
・一方で増えていく、気が抜けないOEM商品。
・他社が容易に模倣できないレベルのソースがあるため、看板商品はしっかりポジションをキープできている。
最後に、私はAさんにこう言いました。
「できて当たり前、と思ってもらっては困りますよね」。
少し困惑しながらも、「そうですね・・・。実績というか結果がすべてですからね。できませんでした、とは言えないので。」
私「確かに機械で味は再現はするでしょうけど、肝心なソースは、ほぼ手作りですよね?であるのならば、数値以外の官能的な要素は、作り手の熱意というか、出来て当たり前だけれど、毎回できた時の達成感はあるのでは?」
A「確かに、言われてみれば・・。」
この会話のポイントは、今の在り方を肯定的にお伝えし、その価値が有することをすばやく言語化する、というコピーライターとして基本的な会話のやり方です。
こうした日常の中にある価値を言葉にすることで、社員自身が”自分の仕事の価値の再定義”を持ち始めます。
そして、自分自身の価値そのものへの、愛着を確認することと思います。
インナー教育というと大げさですが、そんな小さな肯定の積み重ねから始まるのです。

次の対話の相手は、営業部部長50歳男性、食品製造業のせいか、お腹がドーンと出た、愛嬌のある笑顔が特徴の管理職。
月末以外は、外回りが中心で、お客様からの信頼も厚く、どちらかと言えば、面倒見のいい兄貴的な印象の方です。
主に営業先への同行車中での会話となりました。
仲間になる瞬間|言葉の力が生む連帯感。
ほぼ同世代ということもあり、仕事の話よりも、お互いのこれまでの人生の歩みから会話はスタートしました。
営業マンですから、テンポも良く、時に大笑いをしながら和やかに進んでいきました。
部長「しかし、島内さんも社内改革みたいな、大変な仕事を引き受けたんですね。」
私「いえいえ、そんなことはないですよ。先日社長が社内に向けたメッセージを話されたと思いますが、それを考える過程で、想像の域を出ませんけど、”今の在り方”と”これからの在り方”、だけでなく、”これまでの在り方”を「系統図」で考え、説明もしました。ですので、何となく、社内の不協和音みたいなことは想定していました。」
部長は、しばらく沈黙した後にこう言います。
部長「製造部はよくやってくれていると思いますよ。年々自社商品が減る中、営業部の成績の為に、OEMを甘んじて受けてくれているんで。」
私「製造のAさんから少しその辺りは聞きました。でも、会社である以上は、売上、そして粗利は確保しなくてはいけませんしね。」
部長「まあ、そうなんだけど、本当は、社長は、自社商品をもっと製造したいと思いますよ。」
私「どういうことですか?」
部長は、さらに言葉を選びながら言います。
部長「んー。なんというか。会長がまだまだ経営権を握っているので、会社の舵取りは実際のところ、会長なんですよ。だからどうしても、効率よく稼げるOEMの受注へ向かっているんだと思います。専務はともかく、本部長は割と密に社長と話をしてるので、想いは社長と同じかと思います。」
ジワリと、実態領域の話に及んできました。更に部長は言います。
部長「わたしも、どちらかってっていうと、自社商品の方が好きなんですよ。だって自分トコの商品じゃないですか。いくら美味しくても、やっぱ違うんですよ。」
私「なるほど。販売をするうえでも、気持ちの乗り具合が違うんですね。よくわかります。それと・・・」と言いかけてたのですが、それを遮るように部長は運転中にも関わらず、私の方を向いてこう言ったのです。
部長「島内さん、良かったら今度の日曜日、某スーパーにて自社商品の試食販売をするんですが、見に来ませんか?。」
車の前と左の私の顔を、交互に見ながら、私の返事を待っている様子でした。
私「ええっと。大丈夫です。行きますよ。某スーパーですね。昼前後になるかと思いますが行きますよ。」
部長は、その返事に大いに満足したようで、私の顔を見る必要もない、と判断されたのでしょう、運転に集中し始めました。
その日の最後に部長と交わした会話がこれです。
私「でも、他に手伝う人が居ないからって、ひとりで全部やるのは大変ですよね。」
部長「いやあ、疲労は半端ないですよ。翌日も月曜ですし。でもスーパーさんも快く受けてくれたし、その分の商品のスペースも広げてくれたし、若手と交代しても良かったんですが、ここのスーパーは僕の担当なんでね。」
私「確かに。躊躇せず我がことと、自社のブランドの維持の為に、意義のあることを実践されておられるのだから、その気持ちは必ず伝播しますよ。見てないようで、ひとは見てますから。」
こうやって部長との会話を終え、裏表のない実直な部長の言動に感服した一日でした。

某スーパーでの試食販売自体の記載は省きますが、実は、部長がその日書いた営業日報を、後日社長から見せてもらいました。
その部長が書いた欄には、試食販売に来てくれたこと。そして、夕方また来て、頼んでもいないのに片づけを手伝ってくれた事への謝辞と供に、文末にはまるで中学生の様に「仲間が増えた気がした」と書き記してありました。
たいした事は言ってはいないのですが、混じりけのない純粋な意思には、人の気持ちを動かし、そう感じてくれた部長に感謝したのでした。
考え始めた社長|”間”が教えてくれたこと。
三ヶ月が過ぎた時に、社長から呼ばれて、会議室に出向きました。
進捗状況は、数値では表せないので、定期的に会話の内容や受けた印象を報告していたので、呼ばれた理由が分かりませんでしたが、部屋に入った途端、笑顔の社長が迎えてくれました。
社長「島内さん、色々気づきをもらえてありがとう。」部屋に入るなり、いきなりの御言葉。
私「いえいえ、まだ途中だと思いますが、どうされたんですか?」
社長「実は、会長から島内さんがやっていることが、言いにくいのですが、お遊びのように見えていたらしく、ある社員教育の研修制度を受講したらどうか、と言ってきまして。で、無下にする訳にもいかず、概要だけ聞きに行ったんです。」
私「はぁ」。
社長「そこでは、挨拶の仕方から、部下の細かい指導や離職防止、ハラスメント対策などのカリキュラムがびっしりと組んでありました。費用も数十万と決して安くはありません。話を聞くうちに、島内さんの一言が思い出されまして『トップであればあるほど、”自省”すべきだ』。
なぜ、この時に、その一言が思い出されたのか、しばらくして分かったのですが、このカリキュラムには”隙間”がないのです。
島内さんが時々話されている”間”がないのです。

以前、島内さんのブログで書かれていた、”和について”を読んでいたので、本部長や部長へ話されている時は、大変良く理解しておりました。
“間”があるから、創造する。考える。そして、自省もできる。このカリキュラム通りに受講すれば、知識の習得はできるでしょうが、私自身が会得し、私なりの言葉で皆に発信できるとは、到底思えなかったのです。
ですから、辞めました。会長は意に反した私の行動に、ちょっと驚かれたようですが、それこそ”間”が解決すると思いますよ。」
私「いやあ、そこまでお考えとは。もうひとつ言うと、”間”には、沈黙という側面もあり、沈黙ほど相手に思考を促すものはないと思います。私の父が今年1月亡くなりましたが、生前に父から言われていた事や普段忘れている事が記憶として蘇ってくるのです。それも、日増しに増えているような気さえするのです。」
何かを会得したような表情の社長は、うんうんと頷きながらこう言われました。
社長「来月の全体会議の時に、もう一度メッセージを伝えようと思います。幹部たちからも、是非そうしてくれ、と依頼もされましたので」。
私「そうですか。良かったですね。言葉の集大成としてご披露されるのですね。できれば私も出席させてください。」
今回のインナー教育では、数値ではその効果を検証できにくのですが、本人やその周囲を取り巻く空気感や普段会話が生まれない人との会話が生まれたり、上司の顔色を窺ったような仕事ぶりが減ったりしてきました。
言葉は、人と人との懸け橋になります。これを、研修などで言い表すと、情報共有となるのですが、社長御自身が”対話の重要性”がこれほど社内を変えることができた事に、驚かれたようです。
私にとっても、企業内に半年以上在籍し、一人一人の温度や感じ方が違うけれど、発した言葉通りに行動すると、ここまで変わってくれるのか、と改めて美文が書ける人、というよりも、コピーライターとして生きてこれた事に感謝する気持ちとなりました。
少子高齢化、物価高、原材料値上げなど、企業経営の環境は厳しくなるばかりです。
企業が生き残るためには、そこに集う人たちの「発火点」を探し、
それぞれの性質を理解し、ポテンシャルのアベレージを上げる努力、対話を続けていけば、結果は自ずとついてくると思います。
誰一人、決して一人では事を成す事は、できない時代だとも思います。
言葉に仕事をさせるコピーライターに、一度相談されてみてはいかがでしょうか。
