伝わる言葉|”間”を応用する。
会話でも、メールでも、POPや広告のタイトルでも、伝わなければ意味を成しません。この場合、何らかの情報を知ってもらうためだけではなく、心理変容、行動喚起を目的とします。
そこで、これまでの実績や知見、事例をもとにご案内していきます。
ぜひ、ご自身の現場と照らし合わせながら、読み進めてみてください。

余白|見られ方を考える。
アレモコレモ伝えたい、では一番言いたいことが希釈されます。
上記の広告は、世界大戦で景気がいいアメリカの新聞広告です。「大きいことは良いことだ」という世相の中、フォルクスワーゲン社が、それでいいのかい?と問うスタイルで投げうった広告です。
左上に、車体を据え、中央下に「Think small」、そして何が書いてあるのか分かりませんが、ボディの記事が続きます。
余白が、これでもかっ!とあり、見る人の視線を誘導する設計となっています。
「伝えたい事」のみに集中してもらいたい、設計者の意図が伺えます。
後に、この広告の効果を検索して調べたのですが、多勢に無勢のせいか、ワーゲン車の販売数が極端に増えたわけではないようです。
ですが、もともとワーゲンが好きな方にとっては、より一層共感を生んだようです。
擬人化|関係性を構築する。

以前、このサイトのブログでもご紹介しました「サンノーリの告白」。お土産ですね。改めて、このネーミングやパッケージ側面のボディコピー開発についてご説明します。
ネタバレになるかもしれませんが、お味は、極めて普通です。
これの意味することは、「美味しいからまた買おう」とはなりにくいため、お土産を買おうかな、と思っている人との、購入に至る関係性を別の視点から考える必要がある、ということになります。
また、このケースはクライアントから「カタカナでパッケージに、サンノーリと表記してください」という条件付きでした。
テイストも普通。サンノーリという、まるでイタリア語みたいな響きの言葉。しかも、カステラ一斤というお土産として持ち歩くにはボリュームが在り過ぎる。
この案件も限界領域まで考える事となりましたが、思考のポイントをまとめます。
・お土産ですから、買った人のセンスに貢献する設計を目指すこと
・佐賀のお土産ですから、土着さを残す事
・社会情勢や世相を視野に入れて考える
・有明海の色落ち海苔問題を、教科書的ではなく、自分ごととして捉えてもらう表現を目指すこと
・ネーミングは、小学5年生でも理解でき、記憶されやすさを目指すこと
・作り手の人格さえ伺えるような、はっきりとした輪郭を付与すること
有明海の色落ち海苔問題は、年々深刻さを増しています。自然界が人類に与えた、”自省を求める問い”だと私は思っています。
そのような背景をエッセンスとして入れながらも、佐賀県の県民性の一つである「まじめさ」も、このお土産の人格を際立たせる言葉として候補に上げました。
そして、最大の難関が商品名でした。
どういうカステラかは、商品名の横にサブタイトルとして表記するとして、特徴的な商品名を考えていきました。
商品名は、キャッチコピーやタイトルを考える思考と似て非なるものがあります。
一行で、生活者の足を止め、手に取ってもらう役目を持ちますので。
そこで、思いついたのが”擬人化”という試みでした。
擬人化し、物語化してみる、ということです。
サンノーリとは、自分が生まれた海の状態が気になって仕方ない海苔、と設定してみました。
すると、色落ち問題をカステラにすることで、廃棄せずに漁師たちの収入にも貢献する、フードロス問題にも貢献する、というエシカルなお土産、というポジションが得れました。
そして、そんなサンノーリには、伝えたい事があるのです。
それを、パッケージ両側面に記載する設計にし、商品の顔である正面には、「告白」という小学生でも理解でき、何やら謎めいた感じも伺える商品名のみを記し、余白という間でネーミング力を設計しました。
また、この商品で唯一どう美味しいのか、に触れた一文があります。
それは、先ほど「味は極めて普通」という事実を、ポジティブに解釈し、変換させるというスキルでした。
「最初から、小さいお子様から、ご年配の方まで親しまれるように、甘さ控えめを目指しました」と表記しました。
おかげさまで、お土産大賞まで受賞し、空港を筆頭に、継続的にご購入頂いているようです。
切実さ|心理変容・行動喚起

この双眼鏡の売上を10倍にしてください。
そして、その為のキャッチコピーを考えてください。
これは、ある地域資源活用セミナーでのワークショップのお題でした。
6班に分かれて、それぞれ特色のあるキャッチコピーが提出されていました。でも、そのほとんどがスペックに起因したコピーでした。
「大谷選手の汗が見える」など、双眼鏡ならではなのコピー。
私も、家でスマホやゲームばかりしている我が子への不満を持つ親をターゲットにして、「君の将来を見つけに行こう」というコピーを考えました。
評価は頂いたものの、それ以上の秀逸なコピーを登壇者が紹介しました。若干、反則かもと思いましたが、それがこれです。

私には、大学2年の娘が居ます。四国松山で1人暮らしをしています。
そんな彼女が、震災に巻き込まれたら・・・。
そんな緊迫した状況が自身に訪れたら、とにかく他人任せにせず、自分でも探すと思います。
つまり、心理変容と行動喚起がセットで起こる状況には”切実さ”が内包されています。
これは何も、商品の販促以外でも再現できるスキルです。
例えば、企業内の社員のモチベーションを上げるときに、目標必達の訓示をするシーンがあるかと思います。
そんな時に効果的なのは、”やらなかったらどうなるか”を訴える事です。
今回の登壇者が用いた自衛隊の捜索活動は、本当にその足元に、まだ生きている人が居るのかもしれないので、反則では?と思ったのでした。
捨象|そして問うこと。

捨象(しゃしょう)とは、余計な情報を捨て去る、という意味です。捨て去ることで重要なことのみが残るので、理解を深めることができます。
先のフォルクスワーゲンの場合もそうですね。徹底的に余計なものを省きます。
余計なものかどうか判断に困る場合は、無くても本質が伝わると思えれば、躊躇なく切り捨ててください。
そして、情報過多の現代では、問うカタチが読み手には刺さります。
AIが大量の正解を瞬時に提供する時代です。何にでも即座に答えてくれます。そんな平均的な正解に身を投じてばかりいると、情報の受容アンテナが鈍ってきます。
つまり、不思議がる事、もっと言えば”在り方を問う”という感覚が麻痺してきます。
ですので、商品でもサービスでも、何かしらを販促や広告で伝えなくてはならない場合は、一見満ち足りているように思えているけれど、それって本当にそれでいいのかい?みたいな感じで”問うカタチ”のほうが、刺さります。
そこに、切実さや不安要素があれば尚更です。

この3行のコピーの原稿は、ある農家さんとの打合せで候補案として作成しました。
農産品を加工して流通することへのアンチテーゼとしてのコピーです。
その方は、ジャム程度の加工品は作っておられますが、規格外品とかを粉末や錠剤にしてまで販売する、その便利さに疑義を持っていらっしゃいました。
「疑義を持っていた」と書きましたが、当初はそんな事を一切言われず、ただただあまりにも、行き過ぎた便利さに、普段土まみれになっているが故の、皮肉めいたことを言われていたのを、記憶していたのです。
数回お会いする中で、ひょっとしたら「便利さと引き換えに、野菜そのものの大事な何かを、人間の都合で奪っているのかも」とお伝えしたところ、「いや、まさにそう!」と激しく同意をされたのです。
ひとと会うよりも、植物と過ごす時間が長い農家ならではの、ごく自然で、人間味のある達観した考えでした。
まとめ
言葉に仕事をさせる。これは、コピーライターとして、この世に存在しても良い条件のひとつだと思います。
逆を言えば、誰も責任を取らないような美文よりも、その時代背景を読み、依頼主でさえ気づいていない事を言語化し、その依頼主が、今、その一言を言うことにこそ、意味がある、という限界領域まで考えようやく「言いたいことが伝わっていく」ことかと思います。
大人である私たちこそが、次世代の為に、各々の領域で、その知見を発揮する。
私の場合は、コピーライティングというスキルを全方向に向けて、在り方を問う視線で見ています。
最期がやや重くなりましたが、お問い合わせはお気楽にサクッとどうぞ。
私も、サクッとハイボールを楽しみます。
ではまた!
